「小学校教諭溺死事件」(1)

第00021号
2002年9月5日 更新

教員の体育実習研修における主催者側の責任
「教育委員会主催水泳講習会での小学校教諭溺死事件」(1)

(神戸地裁、昭63.12.13判決 損害賠償請求事件、判時1323号113頁)

吉田 勝光

中京大学体育研究所

小学校の新任教員が、市教育委員会主催の体育指導力向上を目的とした講習会に参加したところ、最終日の水泳講習中に溺死した。市側に安全配慮義務の違反はなく、市教委職員にも、ペアーを組んだ者にも過失はないとして、両親の請求が退けられた事件である。

1.こうして事故は起こった

当事者の主張及び証拠に基づいて裁判所が認定した事実関係のあらましは以下のとおりである。
K市教育委員会(体育保健課。以下「K市教委」という)は、小学校の教員一般を対象とした講習会(出張扱い)を開催した。期間は、昭和56年8月中旬の4日間(3泊4日)であった。その目的は、小学校の体育の指導力の向上を図ることにあった。参加者は72名(うち27名が新規採用職員)である。
最終日の午前は、水泳の講習が行われた。その目的は、講習会のレクリエーションをも兼ねつつ、海浜に児童を引率した場合のレクリエーションの指導法を学ぶことであった。開始時、海は遊泳に危険な状態ではなかった。監視所付近に赤い吹き流しが掲げられていなかった。浜の管理者による所定の遊泳禁止措置もなかった。
事前に、主催者側の市教委から諸注意がなされ、体調の悪い者は申し出ることの注意もあった。また、参加者を泳ぎが得意の者と不得意の者、普通の者同志のペアーを編成し、その後、ペアーは安全確認のため死んでも離れてはならないとの指示があった。
Fは、新規採用教員で、勤務する小学校の教頭の勧めもあり、この講習会に参加した。Fは、岸田教諭とペアーを組んだ。2人は、水泳開始後、沖合約75メートルにあるブイまで泳ぐこととした。そのブイ近くまで到達し、ブイとブイのほぼ中間地点でブイを繋ぐロープを足ではさむような格好で休息しようとした。しかし、不安定だったので、別の場所にあるブイで休息することにした。岸田教諭は、先にそのブイに向かって泳ぎ出した。しかし、Fは、逆の方向に向かい、黒田・白井教諭組が休息していたブイにたどりついた。
黒田・白井教諭組は、Fが到着すると同時に浜に向かって泳ぎ出した。Fも、そのペアーを追うようにして泳ぎ始めた(黒田教諭は「(黒田・白井組の後を)白い帽子をかぶった者が追従して泳いで来た」と証言)。黒田教諭が波打ち際に着いて後方を振り返って見ると、白い帽子をかぶった者の姿が見えなかった。黒田教諭は、驚いて「誰か溺れたぞ。」と叫んだ。
黒田教諭を始め参加者らは直ちに海に入り捜索に向かった。事故発生後10数分後、捜索者の一人がブイより約20メートル岸寄りの水深約2.5メートルの位置に頭を沖側にして沈んでいるFを発見し、浜に運びあげ、人工呼吸を施した。Fは、その後病院に運ばれたが、死亡した。(登場人物はすべて仮名)

スポーツ法律用語解説

『安全配慮義務』

特別な社会接触の関係に入った当事者間に認められる、当事者の一方又は相手方に対して、生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務。この用語は、自衛隊員が車両整備工場で車両を整備していた最中に、仲間の運転する大型自動車の後車輪で頭部をひかれ、死亡した事件(最高裁昭和50年判決)で初めて使用された。この「特別な社会接触の関係に入った当事者間」の例としては、国・地方公共団体と公務員間、学校設置者である国・地方公共団体と生徒間などがあるとされる。
この義務に違反した場合には、債務(義務)不履行による損害賠償責任(民法415条)を負う。従って、損害賠償請求権の消滅時効期間は、3年(不法行為責任)ではなく、10年となる。

 

<次回に続く:裁判所の判断と解説>


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