テニススクール経営者の使用者責任(1)

第00014号
2002年8月12日 更新

テニススクール経営者の使用者責任(1)
「硬式テニスクラブ受講者受傷事件」

(横浜地裁、昭和58.8.24 判決 損害賠償請求事件、判時1091 号120 頁)

小笠原 正

日本スポーツ法学会会長
東亜大学通信制大学院教授

1 .事故の状況と指導員の指導
X 会社の経営する硬式テニスクラブの初心者クラスの受講者が、練習中他の受講者の打ったボールで受傷した事故で、指導員に過失があるとして、クラブ経営者の会社の使用者責任があるとされた。受講者に危険引き受けの責任はないのだろうか。
この事故は、X 会社が経営する硬式テニススクールにおいて発生した事故である。この硬式テニスクラブの初心者クラスの受講者A (主婦)は、昭和56 年9 月7 日入学し、Y (Y コーチという)の指導の下に週1 回、各1 時間半の割合で講習を受けていた。
Y コーチは、昭和57 年2 月18 日、A ら初心者クラスの受講者7 名に対し、バックハンド・ストロークの指導をするに際して、Y コーチが一方のコートの中央に立ち、反対側のコートのサービスライン付近にいる受講者2 名に向かって交互に連続してラケットでボールを送り出しこれを打ち返させた。
他の受講者に対しては、送り出すボールを途切れさせないために、打ち返されたボールを拾ってY コーチの手元に届けるよう指示した。Y コーチは、以前からボールを打つ際には、練習を連続的、効果的に進める目的で、練習者以外の受講者にボール拾いをさせていたが、練習中のボール拾いに伴う危険やその防止方法について特に指導をしていなかった。

2 .事故はどのようにしての発生したのか
事故防止の指示がないままに、A はボールに衝突する危険には思いも及ばず、打ち返されるボールの合間を縫うようにして、コート場のボール拾いに従事していたところ、Y コーチの左側サイドライン外のネットよりに落ちたボールを拾った直後、受講者の打ち返したボールを直接右眼球に受け、右網膜振盪症の障害を受け右目視力が1.2 から0.2 に低下した。A は、このような受傷は、Y コーチが受講者に対する危険防止義務を怠ったことにより発生したものであるから、X 社は、Y コーチの使用者としての責任があるとして、損害賠償請求をしたのである。

3 .裁判所はどのように判断したか
一般にスポーツは人身事故に結び付きやすい危険を内包するものであるから、テニスのように比較的事故がおきにくいと思われるスポーツにおいても、指導者は安全確保のための十分な注意が必要である。裁判所は、事実認定のあと次のように判示している。Y は、テニススクールのコーチとして、受講者の生命・身体を損なうことのないようその受講者の資質、能力、受講目的に応じた適切な手段、
方法で指導すべき注意義務があるところ、これを怠り、主婦で初心者であるA に対し、練習者の近くでボール拾いをすることの危険性やその危険防止について何らの指導もしないまま、ボールが衝突する危険のある状況でのボール拾いを指示してこれをさせ、その結果傷害を負わせたのであるから、Y コーチの使用者であるX 社は、民法715 条1 項に基づき、上記傷害によって被ったA の損害を賠償するべき義務がある、としたのである。


<次回に続く>


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