熱中症による死亡と指導者の責任(1)

第00012号
2002年8月5日 更新

熱中症による死亡と指導者の責任(1)
「高校柔道部、夏合宿死亡事件」

(福島地裁会津若松支部、平9.1.13 判決 損害賠償請求事件、判時1630 号122 頁)

小笠原 正

日本スポーツ法学会会長
東亜大学通信制大学院教授

 


県立高校の柔道部員が、夏合宿練習中に熱射病(熱中症)を発症し、合併症として横紋筋融解症を招来して、急性腎不全により死亡した。この事故において、柔道部顧問に指導上の過失があるとして、国家賠償責任を求め認められたものである。

1 .事故はどのようにして発生したのか

Y 県立高校柔道部のA 君は、在校生13 名、卒業生(OB)4 名および柔道部顧問B教諭らと、8 月8 日から12 日までの5 日間の予定で夏合宿に参加したが、合宿3 日目の8 月10 日午前5 時40 分ごろ、合宿所から2.5 キロメートルほど離れた歩道でランニング中座り込んでいるのがB 教諭らによって発見された。合宿所に運ばれたA 君は、汗を異常にかいていたため、シャワーをかけたが状態が改善しないので、B 教諭の車で病院に搬送された。血液検査の結果「横紋筋融解症とそれによる急性腎不全」と診断され、血液透析などの治療を受けたが、8 月11 日午後11 時22 分死亡した。
裁判所は、A 君が熱射病(熱中症)を発症し、その合併症として横紋筋融解症を招来したとして、死亡した原因について詳細に検討している。

1 )A 君について
A 君は、中学入学と同時に柔道を始め、Y 高校入学と共に柔道部に入部、平成6年6 月から主将を務めている。身長170 センチメートル、体重70 キログラムで、疾患もなく健康体であった。合宿一日目の夕食の際、C 君(本件合宿中止後、脱水状態で入院治療を受けている。)と共に夕食のカレーライスを食べ切れず、体調が思わしくなかった。合宿二日目後半は下痢状態にあり、同日の練習終了時は、体調を崩しかなり疲労していたと推認される。

2 )気象要因について
合宿第一日目、午後4 時の気温35.4 度、湿度42 パーセント、二日目午後2 時の気温36.1 度、湿度42 パーセントであった。熱中症は、28 度以上では危険が増し、積極的に休憩を取り、水分を補給し、31 度以上では熱中症の危険が高いので激しい運動は中止し、35 度以上では運動は原則として中止すべきである。しかし、柔道場はトタン屋根で、そこに13 名の在学生、4 名のOB とB 教諭が練習しており、特に二日目の午前中は、他に二校の高校生19 名が加わって練習が行われていた。
窓、ドア等すべて開け放っていたとしても相当な熱気がこもっていたと見るべきであり、柔道場内の環境は、激しい運動を行うには熱中症が発症しやすい危険な範囲にあり、積極的に休憩を取り水分補給を行うべき条件下にあった。

3 )運動の質と量について
合宿第一日目は、暑かったので午後3 時ごろより始め午後5 時30 分ごろまでで終了した。合宿二日目は、午前5 時20 分ごろからランニング、30 メートルダッシュ10 本、ランニング、午前9 時30 分ごろから道場で練習し、休憩、昼食等をとり練習を続け、午後5 時20 分ごろ終了した。前記温度、湿度のもとでの柔道練習であることを考慮すれば、運動強度が相当に大きいものであったことが認められる。

4 )水分の補給について
合宿第一日目、K 高校の教師から差し入れの有ったポカリスエットのペットボトル8 本程度、合宿二日目は、黒砂糖湯が2.2 リットル保温ポット4 本分程度用意された。B 教諭は「水のがぶ飲みはしないよう」注意しており、練習中には出来るだけ水分を補給しないように黙示的な指導がなされていたことが窺われ、少なくとも練習中は生徒にとって水分を補給しづらい雰囲気にあったことが認められ
る。
また、黒砂糖湯は、熱湯に近いものであり、熱中症を予防する水分としては不適切であったばかりか、補給量としても著しく不足していたことが認められる。裁判所は、以上のように認定し、次のように総合的判断をした。すなわち、本件合宿における柔道場の内外の環境、運動の質及び量、水分補給の程度及びA 君の健康状態、医師作成の報告書等を総合すると、A 君は、暑熱環境下での柔道練習により、体熱産生、発汗による体液喪失、脱水、更に熱射病を発症し、その合併症として横紋筋融解症を招来して、急性腎不全によって死亡に至ったものと認めるのが相当である。

<次回に続く>

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