課外クラブ活動顧問教諭の法的責任
「市立中学校柔道部練習負傷事件」(1)
(最高裁、平成9.9.4 第一小法廷判決 損害賠償請求事件、判時1619 号60 頁)
小笠原 正
日本スポーツ法学会会長
東亜大学通信制大学院教授
1 .事件はどのようにして起こったのだろうか
市立中学校の生徒が、課外クラブ活動としての柔道部の練習中に、負傷した事故について、顧問教師に指導上の過失(安全配慮義務違反)はなかったと最高裁が判断した事例である。そこで、事故の状況を調べ判決の理由を検討することとする。又、正規の教育活動としての「クラブ活動」と教育課程外の任意の活動(課外活動)としての「部活動」との間に、顧問教師の責任の違いがあるのだろうか、この点についても検討してみよう。
この事件は、H 市立中学校一年生であったA 君が、同校の課外クラブ活動としての柔道部の練習中に、二年生のB 君から大外刈りをかけられ転倒し、急性硬膜下血腫の障害を受け、重度の後遺傷害が残ったというものである。
そこで、柔道部顧問で指導責任者であるC 教諭が、生徒に対する安全配慮義務を怠った過失があるとして、A 君が両親と共に、H 市立中学校の設置者であるH市に対し、国家賠償法第1
条1 項に基づき、損害賠償を求めたものである。
2 .C 教諭の指導方法はどのようなものであったのか
C 教諭は、全日本柔道連盟6 段の資格を有し同校柔道部顧問として部員の指導に当たって来た経験豊富な柔道指導者である。C 教諭は、A 君を含む柔道初心者の1
年生に対し、当初2 週間、後ろ受け身、横受け身などの受け身だけ四種類の、基礎練習をさせた。その後投げ技の練習に進ませ、打ち込み練習、投げ打ち込み練習、乱取りと段階的に進み、毎日の練習の中に受け身の練習を取り入れていた。柔道部の練習には公務等に支障がない限り立ち会い、危険防止の注意を与え、練習相手も、初心者同士組ませ、次第に初心者に上級者の相手をさせるようにしていた。
3 .A 君とB 君の技能はどうだったのか
A 君は、中学に入学するまで柔道の経験はなかった。中学に入学後は、毎日二時間の練習のほか、昭和62 年6 月中旬ごろから民間の道場に週二回ほど通って柔道の練習をしていた。事故当時の身長は161.3
センチメートル、体重60.6 キログラムであった。B 君とは本件事故までに10 数回乱取りの練習をしたことがあり、何回か大外刈りをかけられたこともあった。そのときは受け身ができ、事故になることはなかった。
B 君は、柔道部の二年生で、初段を取得した有段者である。二年生としてはただ一人正選手に選ばれ、大外刈りを得意としていた。
4 .一審(広島地裁、平3.10.31 判決)、二審(控訴審- 原審、広島高裁6.3.16 )の判断
一審は、本件事故が回し乱取りの練習における一連の攻撃・防御の動作の中で起きた、偶発的なものであるとして、C 教諭には過失がないものとして、損害賠償請求を棄却した。
原審(控訴審)は、大外刈りをかけたB 君と、事故に合ったA 君との技能には、経験年数等から見て格段の差があり、また、翌日に控えた対外試合前の強化練習ということから、真剣勝負に近い試合に準じた練習状況にあったことを考慮し、指導に当たっていたC
教諭の安全配慮義務違反の過失によって発生したものであるとした。
<次回:最高裁の判断と問題点の整理>
|