〜なぜ?その補償を生徒がしなければならないか〜
コラムニスト 平光 正則
「授業の一環としての体育祭の中、多くの観衆の目前でルールどおりに行われた競技の中での事故であるにもかかわらず、なぜ一生徒がその補償をしなければならないのか、なぜ確立された公の補償制度がないのか(現状では額が低過ぎます)疑問が残ります。今後何らかの形でこの経験を生かしていく所存です。」
ここでいう体育祭での事故とは、平成7年9月22日、T立M高校で行われた2年生の棒倒し競技を指している。この競技のルールは、次のようであった。
グランドに約36メートルの距離を置いて設けられた棒の上に旗を立て、ピストルの号砲を合図に、相手方チームの棒の上の旗を取りに行く。スタートラインは、それぞれ旗の前に引かれた。相手方チームの旗を本部前の台へ先に持っていったチームが勝ちとする。
両チームのそれぞれの人数は、なぜか異なっているのが目立つ。黄チームは35人、青チームは28人であった。この中で棒を押さえている守りと、旗を取りに行く攻める者は、それぞれが任意に振り分けた。
試合開始である。その2〜3秒後、黄チームのスタート地点から約21メートル、青チームの地点から約15メートルあたりの地点で、思いもよらぬ事故が起きた。
時計を見ると、平成7年9月22日午後2時35分頃を指していた。
ここで、黄チームの原告A側に登場してもらう。その言い分は次のようであった。(事故後の平成8年7月26日、Aは故意だとして損害賠償請求)
青チームの相手方Bは、原告Aのみぞおちをめがけて右手拳で強く強打。このときAの鎖骨に打撲傷が生じる傷を負った。Aは、このことにより激痛のため、その場にしゃがみ込み、試合終了後、自陣地に戻り、その後、赤チームの後方に行き、横になっていたところを心配した生徒たちが多数取り囲み、「何かされたのか」などといって保健室に運ばれた。
その後、救急車でN大学付属T病院に運ばれた。午後3時30分頃であった。
午後6時20分頃、病院に駆けつけたAの母親に「膵臓が破裂して消化液が出て、腸を解かしてしまうので、直ぐに手術をします。とても危険な状態です」と告げられた。
午後6時30分に手術を開始。同9時10分頃手術が終了した。Aの母親ら関係者に担当医は「膵臓の3分の2と脾臓を取りました。膵臓の縫ったところから消化液が漏れることがあるので油断はできません。危険なのは今夜から2〜3週間で、注意が必要です」と説明された。
一方、学校側の動きはどうであったか。
Aが手術中の午後7〜9時頃、T立M高校の校長、教頭、体育教師は、Aの母親に事故の前後について説明した。体育教師の話は次のようであった。
「1番手が進路を変えたために、2番手のB君と正面でぶつかった。お互い1メートル位飛んだ。見ていたので間違いありません」
もう一方では、手術に立会い、その後担当医となった医師は、校長に次のように問いただした。
「本当に正面衝突ですか。拳でパンチを入れたんじゃないですか。正面衝突だけでは膵臓破裂は考えられません」
しかし、校長は偶発的事故であることを強く主張し、これまでの主張を変えることはなかった。
手術翌日の9月23日に担当医は、Aの母親に「一命を取り留めて良かった」と説明があり、Aは順調に回復していった。
担当医師の説明で、学校側の状況説明に疑問を感じたAの母親は、競技現場に居合わせたAの友人らに事故直後の状況を問いただした(9月25日)。
Aの友人は「A君の隣で走っていたので、よくわかります。あれは偶発的な出来事ではない。A君をめがけて走ってきたんです。相手は空手をやっていて筋肉質で太っています。先生が生徒に対して"誰がぶつかったのか"と聞いたところ、B君が口に手をあて、黙っていろ、というジェスチャーをしたけれど、他の生徒がたくさん見ていたのでわかったんです」と話した。
そこで翌25日、Aの親に代わって、兄夫婦が校長に強く真相の解明を求めた。しかし、既に9月26日付けのPTA「常任委員会だより」には「体育祭は、さわやかな秋晴れの中、無事終了しました」と記載されていたことから学校の態度に疑問を強くしたという。
一方、学校側の対処はどうであったか。9月25日頃から全校生徒に、事件の目撃者を呼びかけた。名乗り出たものから事情聴取を行ったところ、目撃した数名の生徒が現われた。学年主任が中心になって生徒から聞き取りを行った。
調査結果は次のようであった。また、この内容は、T病院ロビーで、校長、教頭担任教諭からAの母親らに結果説明があった。
「全校生徒に対し、目撃者を募ったところ、目撃者が多数現われ、次のような説明を受けました。
AとBの右半身同士、その間にBの右肩から先の部分である肩、肘、手の三つの部分がぶつかったという目撃が多数ありました。また、肘がみぞおちに入った。拳が腹に当たった。右手がお腹に当たったとする証言もありました。そこでBの拳、右手、肘の全てがAに接触していることは間違いないと思われます。さらに、Bは中学1年から週1度2時間づつ空手を習っており、現在初段で、高校1年生のとき、関東大会で優勝したことがあります」
11月25日にA側が証言内容の詳細説明を校長に求めたが、校長は「2人とも同じ学校の生徒なので仲良くしてほしい」と述べて説明を拒否されたという。
担当医師は、Aの母親にAの今後の状態について次のように説明した。
「膵臓の3分の2と脾臓を取ったので、膵臓機能が低下し、糖尿病になる可能性があります。また、3分の2を取ったといっても4分の1しかないと思って下さい。普通の身体ではありません。食生活に注意し、半年に1回は採血をして血糖値の検査をして下さい。膵臓の老化が早く来るでしょう。
想像だが、すれ違いざまではないだろうな。殴りに行ったのだろう。はっきり言って話にならない。偶然当たったなどは非常識だ。何も考えずに当たっていれば、お互い飛ばされている。飛ばされないとしたら衝撃が手にかかり折れている。走っているもの同士がぶつかれば、両方ぶっ倒れ、片方だけのびているということは、やる気があったはずだ」
この結果、Aは膵臓破裂の傷害を負い、この手術により膵臓体部尾部を3分の2切除し、脾臓を全摘する傷害を負った。
以上の経過で、Aは9ヶ月後の平成8年6月27日、「BがAの腹部を拳で強力に殴打したことは、Aの負傷の状況、担当医の説明等から明らかである。よって、AらはBに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、請求の趣旨記載の金員(69,108,696円)の各支払」を求めた。
Aが棒倒しの競技中、対戦相手チームのBと接触して負傷したのは、Bの故意による暴行を主張しているのに対し、Bは故意による暴行でないのは勿論のこと、Bにはその接触を回避する可能性もなく、無過失を主張している。
さて、この体育祭における棒倒しの競技の実態をみてみると―。合点がいかないのが、チームを構成する参加人数である。Aの黄団の参加登録人数は35人(参加人数は27人)。これに対しBの青団は28人(23人)である。問題となった攻撃陣は、黄団が27人。一方Bの青団は僅か8人。通常一人くらい違うことがあっても、助っ人を臨時的に導入し数合わせをするのが常識である。この点、教師がどう考えていたのか、明かにされていない。明かに攻撃力の不公平が目立ち過ぎる。事故を暗示していたとも受け取れる両者の布陣である。
B側は、これは相互に相手陣地に向かって走る攻撃陣の選手同士が相互に行き交う際の衝突回避の可能性を検討する上で重要になる…。と指摘している。撮影されたビデオテープを見ると、Aの黄団の攻撃陣の選手の数が多く、波状攻撃のように次から次と迫ってくる感じがあり、その隙間を縫いながら走らなければならなかったとも言っている。また、スタートラインに並んだ時の様子について「並んだ時にも、すごい威圧感を感じたんですよ。すごい人数が横に一列に並んでいたので…」と証言されている。ビデオテープでも、その様子が撮影されている。
それでは、棒倒しの競技前にどのような準備が行われたのであろうか。関係教諭の説明によると、棒倒しの競技のルール説明や予行演習について次のように行われたという。
@服装は、上半身裸で、下半身は半パンツを着用し、裸足。
A殴る、蹴るなどの暴力行為をした者は即退場。
B棒の先についている旗を取って指定の場所まで持っていくこと。旗を取るには、棒を倒さないと取れないこと。
などの説明があった。
その上で、棒倒しの予行演習は、入退場の練習と守備の際の棒の支え方については行ったが、それ以外には実践練習はしていないと指摘されている。
先に疑問点として指摘したように、事前に予行演習が行われていれば、攻撃陣と守備陣の配置人数の違い、両チーム(黄団と青団)の攻撃陣の選手数の違いがもたらす影響がチェックできたであろう。一方、学校体育祭ではどの学校でも、事前に予行演習が行われている。なぜ、棒倒し競技の予行演習(練習)をしなかったのであろうか。疑問が残る。
事故の核心部分に入るが、決勝戦のスタートからBの青団がAの黄団の棒を倒すまで6秒であった。その6秒の状況については、A、Bの両サイドの言い分、証言に食い違いがある。
(次回へ続く)
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