〜運動会中<教育活動中>の事故をみる〜
コラムニスト 平光 正則
「973」−この数字は、平成9年度に日本体育・学校健康センターが死亡及び傷害見舞金を支給した学校管理下における児童生徒(小・中・高等学校、高等専門学校、幼稚園、保育所を含む)の件数である(うち死亡見舞金は175件にのぼっている)。
平成8年度の支給件数は941件であるから32件の増となる。
そこで、今回は学校の管理下、中でも教育活動中の事故に焦点を当ててみた。まず、災害共済給付(医療費、傷害見舞金及び死亡見舞金の支給)を行うと共に、学校における安全教育や安全管理の普及充実に関する事業を行っている日本体育・学校健康センターがまとめた資料によると、平成9年度では、児童生徒等の数が減っているのに、医療費、傷害見舞金及び死亡見舞金の支給対象となった事故・災害の発生件数は111万件に達していることに注目したい。
まず、教育活動中の死亡事故は29件
▽ 小学校 7 ▽中学校 6 ▽高校 11 ▽保育所 5で、最も多いのが武道の6件(うち柔道5)となっている。内訳は
▽ 球技 5 ▽武道 6 ▽水泳 3 ▽新体操 1 ▽スキー 1 ▽ダンス 1
今回、検証を試みる運動会における事故についてみると、次のような事例がある。
なお、「学校の管理下」となる範囲とは、日本体育・学校健康センターの災害共済給付の範囲で、
1.学校が編成した教育課程に基づく授業中。保育所では保育中を含む。
2.学校の教育計画に基づく課外指導中。
3.休憩時間中。
4.通常の経路、方法による通学中。保育所への通園をも含む。
5.学校外で授業が行われるとき、その場所、集合、解散場所と住居、寄宿舎との間の合理的な経路、方法による往復中。
6.学校の寄宿舎にあるとき。
以上である。
<事 例 1>
運動会で運動場を使って演技するダンスの練習中のことである。
ダンスのステップを踏んでいる時に、小学4年生女子児童Aは手をつないでいた男子児童と転倒した。男子児童はすぐに起き上がったが、女子児童Aは顔の左を下向きにして倒れ、右側の手足を折り曲げて硬直状態であった。救急車で病院へ搬送したが、意識の回復がないまま11ヶ月後に死亡(くも膜下出血)した。
<事 例 2>
やはり運動会の会場であるが、体育活動中外の事故死である。
小学3年の女子児童Aは、児童席に座って見学していたが、後ろで2人の児童がふざけていた。そのうちの1人が、女子児童Aの背中にぶつかった。腰部打撲ということで病院で治療を受けた。しかし痛みが強くなってきたので転医したところ、腹部大動脈瘤が判明したので、保存的な治療を行ってきたが、2ヶ月後に死亡した。
<事 例 3>
次の事例は、疾病による体育活動中の突然死である。
運動会に向けて合同体育授業中に、小学6年男子児童Aは、心臓疾患があり、普段から激しい運動を避けていたため、他の児童と共に見学をしていた。授業が終わるころ、男子児童Aの様子がおかしいという連絡を受けた担任が駆けつけたが、その時既に意識がなく、呼吸や脈拍も感じられなかった。救急車で病院へ搬送されたが、1時間後に死亡(急性心不全)で死亡した。
教育活動中の突然死についてみると、この1年間に78件(総発生件数は108)中、54件で、このうち▽球技 25(うちバスケットボール
11、サッカー 5ほか)▽陸上競技 16などとなっている。
<事 例 4>
小・中学校合同運動会で、小学4年男子児童Aは、小学校全員の紅白対抗リレーに参加した。前走者からバトンを受けて75メートル走って、次の走者にバトンを渡した直後に倒れた。意識、呼吸ともなく、すぐさま人工呼吸を始め、救急車で病院へ搬送したが、2時間半後に死亡(急性心不全)した。
また、学校の管理下の事故による傷害をみてみると、1年間に発生した716件のうち、体育活動中の事故は332件にのぼっている。やはり球技が多く241件。そのほぼ半数近くが野球、ソフトボールの111件を示している。▽サッカー
47▽ラグビー 16▽バスケットボール 33▽バレーボール 13となっている。
武道では18件のうち柔道が16件。器械運動・体操競技17件、陸上競技12件となっている。本題の運動会・体育祭種目では18件で、▽棒引き
4▽リレー 2▽組体操 2となっている。
<事 例 5>
学校行事である運動会で、運動場で棒引きの競技中に中学3年の女生徒Aは、いち早く棒に飛びつき、その棒を持って行こうとヒザをついたところ、相手の生徒が反対側から来て、その棒をつかんだ。その際に女生徒Aは、ヒザの上に乗せられてしまい、左下肢を負傷した(下肢9級)。
<事 例 6>
学校行事の体育祭で、運動場で棒引きの競技中、中学3年女生徒Aは、同じチームの生徒達について行ったところ、前にいた生徒達が棒を引いたので、その棒が女生徒Aに当たり歯を負傷(歯1級)した。
<事 例 7>
学校行事である体育祭が行われた運動場で、騎馬走の競技中に、高校1年男子生徒Aは、騎手の中心となってスタートしたが、直後にバランスを崩して前のめりに倒れ、両手の自由が利かなかったため、自分のヒザで歯を強打して歯を負傷(歯14級)した。
以上の事例は、ほんの一部で、軽重の差はともあれ、これに近い事故に遭遇したり、出合う事故が多い。
次に、事故による補償についても、通常の保険、補償制度によって円満に解決するものである。しかし、死亡、重廃疾となると問題解決は深刻であり、訴訟に発展するケースが多くなってきている。参考までに運動会に関連する事例について、伊藤堯・入澤充編著「スポーツ事故ハンドブック」(道和書院)の中から引用してみた。
<事 例 8>
昭和62年(1987)9月、F県立高校2年男子生徒A(当時)が、同校の運動会で騎馬戦の先頭の馬を担当して出場。その競技中、相手方の複数の騎馬に押し寄せられ、敵味方の騎馬と共にひとかたまりになって倒れた。この勢いで男子生徒Aは、首の骨を折るなどの重傷を負い、手足に麻痺が残り、同年、身体障害者1級の認定を受けた。
このため、男子生徒Aとその両親は、「騎馬戦で負傷し、手足に麻痺が残ったのは、学校側が安全への配慮を怠ったため」であるとして、F県を相手取り総額2億5200万円の損害賠償を求めて、F地裁に提訴した。
裁判で原告(男子生徒A)は「同高校は、対戦相手の騎士を引きずり落とす危険な"大将落とし"方式を採用しながら、審判の教師を周囲に配置するだけで、危険防止措置をとらなかった」と主張した。
一方、被告側は「大将落としは当時、他の高校でも行われており、教師と生徒が話し合って採用した。通常予測できる範囲を超えて起こった、まれな事故で、教師は安全配慮義務を十分尽くしていた」と反論した。
判決では「教師は騎馬戦の危険性を認識し、生徒に安全確保のための注意、指導を行うべきだったが、練習段階で注意、指導したことは認められない」と指摘し、「生徒が負傷する危険が生じたような場合には、対戦を中止させるなどの措置がとれる監視体制を、あらかじめ整えておくべき義務があったが、教師らはこれを怠った」と判断し、県に対して約1億5356万円の賠償支払いを命じた。
<事 例 9>
この事例は、運動会が行われた運動場で、施設不備から起きた死傷事故である。平成12年(2000年)10月15日、H県O町の小学校の校庭で、朝から全校児童や町民が参加して運動会が行われた。午後2時ごろ、地区運動会の最中、小学3年の女子児童Aらは、地区運動会の年齢別リレーに参加するため校庭東側プールわきの防級ネットの下の部分で待機していた。
その防球ネットのコンクリート支柱が突然倒れ、その下敷きになって女子児童Aは頭を打って死亡した。また友達の同女子児童Bも頭を打つなどして1ヶ月の重傷を負った。支柱は、4本立っており、ネットが掛けられていた。支柱はコンクリートで直径20センチ、高さ6メートル、6年前の平成6年(1994年)ごろ設置され、地下80センチ埋め込まれ、地中20センチのところで折れていた。ネットは幅21センチ、高さ6メートルのものであった。
この防球ネットの設置に当たって同町では、電柱を譲り受け、保護者らがボランティアで設けたという。その場に居合わせた関係者の話では、折れ目は中の鉄筋の半分ほどが腐食していたという。
(次回へ続く)
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