「スキー・スノーボード 楽しく安全に」5

第00037号
2004年2月2日 更新

ウインター特集
「スキー・スノーボード 楽しく安全に」5

福井大学教育地域科学部助教授
全国スキー安全対策協議会調査委員会委員
日本スポーツ法学会会員水沢 利栄

衝突事故の法的責任
双方の過失に応じ賠償

スキー場での事故の責任問題に筆者が興味を持ち始めたのは、学生時代に見た次のような衝突事故からだった。
緩斜面のゲレンデで初級者の女性がゆっくり滑っていたところへ、後ろから滑ってきた男性が激突、女性はその場に倒れた。その男性は近寄って「大丈夫ですか」と声をかけると、女性は弱々しい声で「はい」と答えた。その言葉を聞くやいなや男性は滑り去って行った。ところが女性はみるみる唇が紫色になり意識がなくなってしまった。私はすぐに救助のパトロールを呼んだ。パトロールは彼女を救助用のソリに乗せ麓(ふもと)まで下ろし、救急車が呼ばれた。
女性は入院、ぶつかった男性は分からないままだった。

この衝突事故の一部始終を見ていて私は、スキー場というところは恐ろしいところだと思った。意識がなくなるほどにぶつかっておいて、「大丈夫」の一言で済まされるのか。街を歩いていて意識がなくなるような衝突をしてケガをさせた場合、「大丈夫」の一言で許されるわけがない。交通事故などでは警察が関与する問題である。ところがスキー場ではそれが許されるのか。スキー場とは無法地帯なのか。この衝突事件を目の当たりにしたのがきっかけで、私はスキー場での事故の責任問題について研究するようになった。

スポーツ事故の場合、傷害を発生させた行為がスポーツ中であるという理由で責任を問われないという考え方がある。著しいルール違反や暴力行為の場合は別として、通常の枠内の行為であれば相手にケガをさせたとしても、そのスポーツの正当な行為として法的には問題にならない。たとえばサッカーの試合中にタックルされて骨折をしたとしても相手選手に損害賠償を求めたりはしない。
ところが同じスポーツであってもスキーやスノーボードは人と接触することが本来の内容とはされない。衝突してはならないスポーツなのである。したがって、スキーやスノーボードの最中に相手にケガをさせた場合には損害賠償の責任を負うことになると考えられる。損害賠償の額は、衝突に至った双方の過失の割合に応じて決められることになる。この考え方が現在の主流となっている。

また、危険受忍(じゅにん)という考え方もある。スポーツに参加する際「だれかにけがをさせるかもしれない」「だれかにけがをさせられるかもしれない」という危険をあらかじめ承知のうえで各自が参加しているのだから、運悪く衝突してケガをした場合でも、お互いに許しあえるというものだ。もちろん相手を許せるケガの程度にも限界がある。
スキーの衝突事故では、ねん挫だと危険受忍の範囲内であるとされた判決もあるが、失明だと社会的許容限度を超えていると判断された裁判例もある。しかし、衝突しておいて責任はない、相手に我慢しろと加害者側が主張することはおかしなことだと思う。1995年3月、最高裁は、衝突した加害者側スキーヤーの危険受忍の主張を退ける判断を示している。

〔福井新聞社提供〕



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