「予想の難しさ」

第00010号
2002年9月20日 更新

「予想の難しさ」

スポーツライター浜田 昭八

ベテラン競馬記者は、ビギナーに勝ち馬予想を求められると先行馬を教えた。テレビ観戦すると必ず画面に登場して、しばらくはワクワクさせてくれる。負けても「惜しい」で済む。実力馬でも、追い込みタイプを教えると画面に姿を見せないで敗れることがある。「でたらめを教えた」となじられるより「惜しい」のを挙げるのが無難なのだ。

実力馬にも調子の波がある。今回は勝てそうにないと見たときでも、無印にするのは勇気がいる。予想に反して勝ったり、2着に入ったときに受ける.集中砲火が怖い。「はずしたときに袋だたきに合わなければ、もっと大胆な予想ができる。でも、おカネがかかっているから仕方がない。その点、野球記者はいい。よく予想をはずしているのに」と、うらやましがられたことがあった。

「とんでもない」と反論した。おカネがかかっていないから、順位予想に対する野球ファンの思いは純粋だ。ひいきのチームを低く予想すると、まるで恋人や母親をけなされたように怒る人がいる。開幕前ぐらいは、希望を持たせろというわけだ。

そのチームが上位に食い込んだり、優勝したりすると大ごとである。「お前らはまじめに取材をしたのか。この躍進を、どうして見抜けなかった」と、悔しかった思いを一気にぶつけてくる。
昨年はセのヤクルト、パの近鉄の健闘があって、全国の野球記者が身の縮む思いをしたことだろう。セの巨人が投打に抜きん出ていて大本命。パはダイエー、西武の争いというのが、大方の見方だった。この大方というのが、順位予想をつまらなくしている。巨人を優勝候補に挙げるのは、超有名馬を本命や対抗に推すのと同じ。
当たれば当然、外しても「みんなで外せば怖くない」になる。パの両チームについても同じ。

とはいえ、昨年のヤクルト、近鉄の健闘をどう説明すればいいのだろう。自責の念を込めて、下位予想したことを、恥じ入るほかはない。ヤクルトは1997年に優勝したあとは、3年連続4位だった。やさしい若松監督になってから主力の気が緩み、エース級の川崎が中日へFA移籍した。これではAクラス突入も無理と判断した。
ところが投手陣では藤井が大きく成長。巨人を解雇され、テスト入団した入来智が大変身する活躍を見せた。打線では稲葉、真中、岩村らが力をつけ、巨人の大型打線とはまた違ったいい味を出した。終盤になって古田、宮本が故障するピンチがあったが、結束してカバーした。伊東コーチの好サポートはあったが,監督3年目で見せた若松監督の投手起用のうまさも、シーズン前には予想できなかった。
近鉄は佐々木前監督の最終年になった'99年と、梨田監督が就任した昨年と、2年連続で最下位だった。目立った補強もなく、出足もよくなかった。例年だと、このままズルズルと沈むのだが、今年は違った。ホームグラウンド大阪ドームの不入りに危機感を覚えた球団、関連企業がテコ入れに乗り出した。
元ドジャース監督のラソーダを顧問に迎えて、外国人選手の入れ替えに着手。この中から投手パウエル、遊撃手ギルバートが戦力になった。さらに、トレード期限間際の駆け込み交渉で、巨人から獲得した三沢が中継ぎ投手でひときわ光る活躍を見せた。中村、ローズを中心にした打線には元々力があった。投手陣さえ、といわれたチームの欠点が、ここまで見事にカバーされようとは…。終盤には若い速球王岩隈も飛び出し、これがあの低迷近鉄かと見まがうばかりだった。
予想がはずれた言い訳にならないが、大化けする選手がいたり、トレードの大ヒットがあったりするから、プロ野球は面白い。かつて、知将三原脩はペナントレースの展開予想を聞かれて言った。「そんな先のことが分かるようなら、私は八卦見になって、カネ儲けをします」



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