叱ってばかりいませんか?

第0007号
2003年2月24日 更新

叱ってばかりいませんか?

名古屋大学総合保健体育科学センター 

教授 西田 保

 愛犬との散歩中、ある公園でスポーツ少年団の練習(ソフトボール)をみる機会がありました。父親らしい指導者が熱心に教えているのですが、「そんなボールも取れんのか」「ボールをよくみろ」「何をしてるんだ」「バットをもっと速く振るんだ」という大きな声に驚きと落胆を感じました。というのは、心理学に興味深いこんな話があるからです。

 セリグマンというアメリカの心理学者は、犬を縛りつけたまま電気ショックを何回も繰り返し与え続ける実験をしていました。犬は電気ショックのたびに逃げだそうとしますが、それがダメだとわかると抵抗むなしくワンワンと吠えていたそうです。五代将軍徳川綱吉もあっと驚くなんとも無情な実験です。ある日、セリグマンは犬がその場から逃げだせるようにしました。犬にはようやく電気ショックから回避できるチャンスが到来したのです。ところが、どういうわけかその犬は、電気ショックから逃げだせるにもかかわらず、最初と同じようにただうずくまってワンワンと鳴いていたというのです。

 セリグマンは、この現象を「学習性無力感」と呼びました。文字通り、無力感が学習されるということです。つまり、逃げることのできない苦痛な状態(縛られて電気ショック)を繰り返し経験していると、なんとかしてその場から逃げだしてやろうというやる気がなくなり、もっと悪いことには、たとえ逃げだせる状況が与えられても「自分はもうだめなんだ(無力感)」と思ってしまって、その努力をしないというのです。教育ママから難しい算数の問題を与え続けられて解けない子どもが、やさしい問題に出会っても「できない」というのと同じ心理状態です。

 「どうせうまくいかないに決まっている」「いくら頑張っても勝てっこない」と思い込んでいる子どもには、簡単なことでよいからうまくできたという成功の喜びを経験させることです。小さな成功の積み重ねが自信につながり、自分も頑張ればそこそこできるんだという意識(随伴性認知)が芽生えたならしめたものです。やがて大きなやる気に変っていくに違いありません。一例ですが、練習の最初と最後にその子どもの得意な運動をさせてみるのはいかがでしょうか。気持ちよく練習に入れるし、また次にも練習したいという満足した気持ちで練習を終えられると思います。子どもを叱ってばかり(失敗や苦痛の連続)いると、「自分はもうだめだ」と思い込み、セリグマンの犬のようになってしまうことを忘れてはいけません。


ゴルフ上達へのメンタルレッスン
(西田 保、PHP研究所、1993)より引用



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